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作成日:2006/11/30


歴史・読み物 昔の牛久

住井すゑとその文学の里(十) 〜牛久沼のほとり〜

牛久市文化財保護審議委員   栗原 功

住井すゑ子の筆名で童話を書く - 犬田夫妻と野口雨情の出会い -

 大正10年(1921年)の秋、19歳の住井は犬田卯と田端文士芸術村の片隅で世帯を持ったが、卯が無収入なので、ブームの「童話」を書いてその稿料を生活費にしていた。
 童話は江戸時代中期に陸中国(現岩手県)の紫波郡下の北上川中流域で起こった『お伽噺桃太郎』や、諸国伝承民話、禺話などが源流だ。
 大正7年(1918年)の7月、作家の鈴木三重吉が、「芸術として真価ある純麗な童話を創作したい…」と、作家たちに呼び掛け、童話・童謡(鈴木がこの名を付けた)雑誌『赤い鳥』を創刊した。その運動に共鳴して芥川龍之介が『蜘蛛の糸』と題する童話を寄稿すると、森鴎外、島崎藤村、小川未明、谷崎潤一郎、泉鏡花らの作家も『赤い鳥』に童話を寄稿した。
 もう一方で鈴木が赤い鳥創刊号に童謡欄を設けて、詩人と作曲家に「子どもをやさしく育む歌と曲(童謡)を与えてやりたい」とも呼び掛けると、北原白秋が『雨』、西条八十が『かなりや』という童謡詩を寄稿した。これらの詩に成田為三が曲をつけ、翌年5月号の赤い鳥に載せられた。
 童謡流行端緒の翌年(大正8年)4月、新たに童謡誌『金の船(社主が佐藤佐次郎、監修が島崎藤村で、後に金の星に改称される)』が創刊された。その創刊号に西条八十の斡旋で野口雨情が『四丁目の犬』を発表した。以後雨情は金の船に毎号、童謡を発表するが、翌年の『十五夜お月さん』には本居長世が曲をつけ、丸の内有楽座で発表会が催された。本居はこの歌を娘のみどり(10歳、童謡歌手第1号)に歌わせ、爆発的な人気を呼び、童謡が盛んになった。本居はその後、みどり、喜美子、若菜三姉妹を連れて全国を童謡行脚して歩いた。この時期は、十五夜お月さん、七つの子、船頭小唄(原名枯れすすき)と雨情の作品が流行していた。
 雨情が田端文士芸術村の一角に置かれていた金の船社社屋の一室に起宿していたころ、犬田夫妻と出会った。以来雨情と犬田夫妻の親交は、犬田夫妻が牛久に帰郷してからも続く。現在犬田家の一室には雨情から贈られた書の短冊『知人は天地を畏敬す わが畏友に犬田氏あり雨情』が掲げられている。
 野口雨情は、明治15年(1882年)に茨城県多賀郡北中郷村大字磯原(大正14年磯原町、現北茨城市)の廻船業を営む野口家に生まれ、名を英吉といった。菊水紋を用いる野口家は第96代後醍醐天皇に仕えた楠木正成の弟正家の末裔だ。水戸藩の郷士の家柄で広大な田畑山林を所有する野口家の広い屋敷と住居は磯原御殿と言われ、第2代藩主徳川光圀(水戸黄門)もたびたび訪れた。雨情の父量平は名誉職の村長を歴任し、伯父の勝一は代議士で東京に居を構えていた。文才があった竹馬の友の感化で雨情は新体詩や短歌を詠む。高等小学校を卒業すると上京、伯父宅に寄宿、そこから東京数学院中学、順天中学に通い、俳句をひねった。東京専門学校(現早稲田大学)高等予科文学科へ進み教授で作家の坪内逍遥と出会い、その薫陶を受け、同窓の小川未明(小説家・童話作家)や西条八十と接触をもった。父の死去で同校を中退、帰郷して家督を相続し、ひろと結婚した。翌明治38年に民謡詩作品集枯草を自費出版して、翌年南樺太に渡った。磯原に戻り、同40年に『七つの子(大正10年に改作)』の原形山鳥を収めた月刊詩集朝花夜花を出版。一時、新聞記者になり北海道に渡って札幌で石川啄木と出会った。再び磯原に戻り、ひろと離婚、3年後つると再婚した。雨情は童謡詩の先駆者と称され、一方では雨情、白秋、八十の3人は童謡詩界の三大家とも称えられた。雨情著の大正12年刊の童謡教育論の中から雨情の童謡哲学を窺い知ることができる。それによれば小学校修身教育の徳目「愛」を『七つの子』に表現して児童たちに、 鳥 なぜ啼くの 鳥は山に 可愛い七つの子があるからよ/可愛 可愛と 啼くんだよ と歌わせ、何度も歌っているうちに自然と児童の心が鳥、延いては「萬物」に対する愛情へと変わっていくというのであった。

雨情と小川芋銭の交流

 雨情は15歳上の芋銭を敬愛していた。芋銭を磯原に招いて句会を開く計画を立てた。が、これは芋銭の都合で実現を見なかった。雨情は芋銭に大正13年発行の『雨情民謡百篇』の装丁を依頼している。芋銭が描いた表紙には、中央の二重丸の中に童子と鶏、草花が描かれている(北茨城市発行の広報紙より)。

住井の童話集の一部

住井の童話集の一部。住井は生涯を通して数多くの童話を書いた。童話興隆に寄与したと言えよう

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