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作成日:2006/04/30


歴史 読み物

昔の牛久 住井すゑとその文学の里(三) 

牛久沼のほとり

牛久市文化財保護審議委員   栗原 功

日露戦争反対と人間平等の思想家幸徳秋水

その幸徳に8歳の住井は共鳴 
 「人類の母性は人以上の人を生まず、人以下の人を生まず(万人平等)」と住井すゑは後年言った(増田れい子著・株式会社海竜社刊「母住井すゑ」より)。  それより先の幕末(嘉永・安政)に、加賀藩士千種藤篤や長州藩士の吉田松陰が「身分差別解消」を説いた。明治新政府は制度上では身分差別の解消を図ったが、社会的・経済的・身分的差別は歴然と残された。福沢諭吉は明治5年(1872年)に発刊した啓蒙書「学問のすすめ」の冒頭の小節で「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」と説いた。  前川む一編・解放出版社刊「住井すゑの世界(その生涯と文学)」によれば、住井が平野尋常西小学校の3年生に進級した明治43年(1910年)の6月5日の朝礼の訓話の中で校長が「幸徳秋水(名は伝次郎)が天皇陛下暗殺を企てた」と言った。住井は、戦争反対・人間平等を主張する幸徳秋水の思想に共鳴を覚えていた(日刊平民新聞購読者の父岩次郎が「幸徳は偉いやっちゃ」と言っていた)。翌年1月、担任の三住先生から幸徳以下12名(幸徳もこの暗殺計画に関係あるものとされた)の死刑が東京・市ヶ谷監獄で執行されたことを聞かされた。

幸徳秋水は陰陽師安倍晴明の末裔

 幸徳秋水は明治4年(1871年)9月に高知県(旧土佐国)幡多郡中村町(旧中村市、現四万十市)で生まれた。幸徳家は幸徳井家(京都南都幸町に居住していた)と称していた。平安時代中期以降、天文道の安倍家と暦道の賀茂家は「安賀両家」と称され、この安賀両家が「陰陽寮(天文・暦・気象・占いなどを担当した役所)」所管の職掌を分掌してきた。室町時代初期の応永年間(1394〜428年)に、天文博士(陰陽寮の役人)安倍晴明の子孫にあたる友幸が、賀茂家に養子に入ったが、その後幸徳井を名乗った。幸徳井家相続人は、代々、陰陽頭職(長官)などを世襲した。秋水が生まれた幸徳家は薬種業と酒造業を営んでいた。三男の秋水は神童といわれ、高知中学などで学ぶ。17歳で上京、同郷の中江兆民(東洋のルソーと呼ばれた)の書生になった。さらに同郷の板垣退助(自由民権運動の先駆者)の自由新聞に入社。秋水28歳の明治31年(1898年)に万朝報に転じた。一方で秋水は社会主義運動に傾倒して、安部磯雄らと明治34年(1901年)5月18日に社会民主党を結成した。が、その綱領に「軍備全廃」を掲げていたため、翌々日に解散命令が出された。そのころ万朝報が「ロシアと戦うべし」に転じたので秋水は堺利彦と退社して、二人で「ロシアとの戦争反対」を社是に週間平民新聞を発行した。週間平民新聞は創刊一周年記念号に共産党宣言文を掲載したため、思想弾圧により廃刊に追い込まれた。

幸徳秋水と小川芋銭の交流

 芋銭と牛久沼の河童伝説
 秋水と堺利彦、西川光二郎らが明治39年(1906年)に日本社会党を結成して、機関紙、日刊平民新聞を創刊した。日刊平民新聞は思想的立場が異なる知識人や小川芋銭ら芸術・文化人にも評価され、彼らからは原稿や挿絵が寄せられたが、1年余で廃刊に追い込まれた。  小川芋銭は住井すゑの夫、犬田卯の生家の近所、牛久沼のほとりに居住していた(犬田卯は芋銭を師と仰いだ)。周囲20km余の牛久沼には「河童」が棲むと伝えられていた。河童や蛇、大蛇、竜などは水神の化身とされた。河童は日本書紀に登場し、青森から沖縄までの水界(川、池、沼、海など)に棲んで、陸上も歩行する人間の想像上の妖怪だ。河童は水中を自由自在に泳ぎまわり(水泳の名人を河童とも言う)、ほかの動物を水中に引き込んで血を吸うものとも伝えられた。それが水神信仰が薄れてしまったために、落魄して水界に棲む零落の妖怪と化したようだ。芋銭は「牛久沼の河童を自在に泳ぎまわる『自由の象徴』」として描き続けた。芋銭は俳句にも「ガハッパ(河童)の幻なかる子狸藻」と詠んだ。芋銭はその一方で「新南画(南宗画)」に独自の画境を確立した「文人画家」でもあった。芋銭は常々、「私は千万人の好む芸術を生む考へはない。たゞ一人でも本当の私を知ってくれる人があればそれでよい。私は人格の芸術を生むのである」と言っていた。日刊平民新聞を通じて芋銭と出会った中里介山(大菩薩峠の作者)は度々芋銭宅を訪れ、その訪問記を都新聞(現東京新聞の前身)に連載した。 

日刊平民新聞第1号(明治40年(1907年)1月15日)の挿絵
小川芋銭と幸徳秋水の合作(小川耒太郎氏提供)
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