平成26年度 諮問第5号/答申 (2017年4月14日更新)
「第2次納税義務訴訟に関する行政処分取消訴訟の訴状、答弁書、準備書面、判決書」の部分公開決定に対する異議申立てに関する答申(諮問第5号)
異議申立て事案に対する牛久市情報公開・個人情報保護審査会の答申
1. 本件諮問は、牛久市が、異議申立人から平成26年1月27日付で請求のあった、「(特定法人)に関する行政処分取消訴訟に関する訴状、答弁書、その他の準備書面。判決書は含むが、写真等証拠書類等は含まない」(牛久市収納課第333号同日受付。以下、「本件文書」という)の情報公開につき、平成26年2月21日牛久市甲第674号公開決定(以下、「本件決定」という)により、本件文書を含む訴訟記録である水戸地方裁判所平成22年(行ウ)第3号事件及び東京高等裁判所平成24年(行コ)第396号事件(以下、両事件を一括して「本件訴訟」という)に係る、訴状、答弁書、両当事者の提出に係る各準備書面、控訴理由書及び両審級での判決書のうち、当事者及び関係私人の氏名・商号・代表者名及び住所、係争地及び関係地の地番・道路番号・家屋番号・建物番号及び床面積、並びに本件訴訟において価格鑑定を行った不動産鑑定士の氏名等(以下、一括して「本件非公開部分」という)を非公開としたことに対して、異議申立人が本件非公開部分を全部公開すべきことを主張し、本件異議申立がなされたことによるものである。
当審査会は、関係資料及び関係法令を精査し、慎重に検討し、かつ議論を尽くした結果、本件文書中本件決定による本件非公開部分に係る非公開処分については、牛久市情報公開条例(以下、単に「情報公開条例」という)に則った十分な合理性が認められ、本件文書が概ね平成29年頃まで水戸地方裁判所において民事訴訟法第91条に基づき何人も裁判所書記官に対して閲覧請求を行うことが可能であることを考慮したとしても、情報公開制度及び個人情報保護制度の本旨に照らして、本件決定は妥当である、との結論に達した。その理由は、以下に述べるとおりである。
2. 本件決定において、本件文書中非公開とされた上記部分については、いずれも、本件訴訟の当事者及び関係者を容易に特定することができる情報であり、情報公開条例第7条第2号本文にいう、「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)で、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが、公開することにより、なお特定の個人の権利利益を害するおそれがあるもの。」に該当することが明らかである。従って、情報公開条例中の例外事由に該当するのでない限り、本件決定において、本件非公開部分を非公開とした判断は、情報公開条例に則った適正かつ妥当な判断というべきである。なお、訴訟を提起した事実は、当該当事者が自己の意思で行うのでない限り、一般に公開をされることを望まない情報であり、訴訟の具体的結論によって、この前提が左右されないことは明らかであるから、本件訴訟の当事者が自己の意思に基づいて本件訴訟に関する情報を公開した事実が認められない以上、本件訴訟に関して本件非公開部分を非公開とした牛久市の判断は、その点でも妥当なものというべきである。
もっとも、異議申立人が主張するとおり、本件訴訟を含む民事・行政事件の訴訟記録については、民事訴訟法第91条に従い、当該訴訟記録を裁判所書記官に対して閲覧請求できるとの規定が存在する。従って、この裁判所における訴訟記録の閲覧請求が可能であることを以て、情報公開条例第7条第2号但書(ア)にいう、「法令等の規定により、又は慣行として公開請求者が知ることができ、若しくは知ることが予定されている情報」に該当するかが問題となるので、以下、この点について検討する。
3. 民事訴訟法に基づく民事訴訟記録の閲覧請求が可能であることが、「法令等の規定により請求者が知ることができる情報」に該当するか否かについて、最高裁判所の判例は現在まで存在しない。また、下級審裁判例では、民事訴訟法に基づく記録閲覧が可能であることを理由として個人情報等を公開すべきとするもの(横浜地裁平成22年3月17日判決・平成21年(行ウ)第15号事件、高松高裁平成17年4月15日判決・平成17年(行コ)第1号事件、高知地裁平成17年9月13日判決・平成17年(行ウ)第4号事件)と、なお公開を否定するもの(東京地裁平成22年12月22日判決・平成22年(行ウ)第285号事件、東京地裁平成22年1月13日判決・平成21年(行ウ)第420号事件、高知地裁平成16年11月30日判決・平成16年(行ウ)第11号事件、高松高裁平成18年4月24日判決・平成17年(行コ)第17号事件)とが相半ばしており、いずれか一方の議論が他を優越している関係にはない。従って、現在のところ、民事訴訟法に基づく閲覧請求が可能であることが、情報公開条例第7条第2号但書(ア)に該当するか否かについては、裁判所の判断は不明であると考えるほかなく、この解釈は、民事訴訟法に基づく訴訟記録閲覧の制度趣旨と、情報公開・個人情報保護制度の本旨との関係で、考察する必要があると考えられる。
4. 民事訴訟記録は、民事訴訟法第91条に従い、何人も書記官に対して記録の閲覧を請求することができるが、これは、裁判の公開、公平な裁判の実施、という裁判所に課された憲法上の要請に基づいて、裁判所の責任と裁量において実施されている制度であって、情報公開法ないし各種情報公開条例に基づき、行政機関等の実施機関が行っている情報公開制度とは、理論的な基盤も実務上の運用も異なる部分が少なからずある。また、民事訴訟記録といえども、全ての記録が完全に閲覧可能であるわけではなく、当事者の利益を著しく損なう虞のある情報については、当該当事者の申立により、裁判所の決定によって、閲覧が当事者に限られる場合があることが、同時に法定されており(民事訴訟法第92条)、この場合における裁判所の閲覧を制限すべきか否かの判断にかかる裁量は、相当広い範囲で認められているのが実情である(同種の事件で異なる判断が生ずることも稀でない)。また、訴訟記録のうち、判決書以外の記録については、当該裁判が確定した後、概ね5年間で廃棄される扱いとなっており、この取扱は、民事訴訟記録の閲覧制度が、裁判の公開と公平な裁判の実施のために行われているものであるとの趣旨から合理的に説明できるものであるが、この裁判所における運用と無理に平仄を合わせようとした場合には、実施機関が保有する訴訟記録に対する公開請求に対しては、同事件の確定後概ね5年間においては全部公開を行うべきこととなる一方、確定後概ね5年間を経過した後においては、判決書についてのみ全部を公開し、判決書以外の記録については、裁判所において記録が廃棄されている関係で、「法令等の規定により請求者が知ることができる情報」に該当しなくなることから、判決書から判明する部分を除いて個人情報等を非公開とすべきこととなるが、このような運用が、合理性や妥当性に欠けることは、明らかであると思われる。
以上のことからすると、民事訴訟法に基づく訴訟記録の閲覧制度は、行政機関等の運営の透明性の確保と国民の主権者としての知る権利の保障のために実施される情報公開制度とは、制度理念が異なるものと言わざるを得ず、情報公開制度・個人情報保護制度が本来予定している公開の判断基準とは異なる次元のものであることが明らかである。従って、裁判所において訴訟記録の閲覧が可能であることのみを以て、情報公開条例にいう「法令等の規定により請求者が知ることができる情報」に直ちに該当するとは言えないものと考えられる。
5. また、情報公開制度及び個人情報保護制度の本旨から考えた場合でも、訴訟記録における当事者及び関係者の個人情報を非公開とすることは、十分な合理性があると考えられる。
すなわち、実施機関である行政庁が保有する訴訟記録の大半は、当該実施機関自身が訴訟の当事者となった事件の記録であることからすれば、当該記録における個人情報を実施機関が公開することは、訴訟における一方当事者が相手方ないし第三者に関する情報を公開することに外ならず、相手方ないし第三者の権利利益を不当に害したとの評価を受ける虞が高いものと言わなければならない。また、前述のとおり、訴訟当事者にとって当該訴訟に関する情報が公開されることが利益となるか否かは、当該当事者自身の判断に委ねられるべきであり、少なくとも訴訟の相手方であった実施機関が判断すべきでないことは明らかである。特に、税務に関する情報は、当該情報それ自体が関係者の経済的利益に直結するものであるのみならず、当該情報を基にして、関係者の取引状況をはじめとする経理情報及び業務情報を容易に推測させることが可能となるものであるから、仮に税務情報が裁判上の争点となり、関係証拠が民事訴訟法上閲覧請求の対象となりうるものであったとしても、情報公開制度の下では、なお非公開情報の範囲に属するものと考えるべきである。
6. 他方、異議申立人は、異議申立理由の中で、本件文書中で双方当事者の訴訟代理人弁護士の氏名が公開されていることと比較して、同じく専門職である不動産鑑定士の氏名が非公開とされていることが均衡を失する旨主張するので、次にこの点について検討する。
不動産鑑定士は、当事者から委託を受けて、契約の一方当事者として依頼事項を遂行するものであって、訴訟代理人として依頼者と一体となって行動することを業務内容とする弁護士と異なり、一般的な取引の相手方と同一に考えて差し支えない。従って、不動産鑑定士の氏名を公開しないとする判断は、原則として情報公開制度の趣旨に則るものと考えられる。
これに対して、訴訟代理人弁護士に関する情報の取扱については、実施機関によって同一でなく、双方当事者の訴訟代理人の情報が全て公開される場合、実施機関側の訴訟代理人に関する情報のみ公開される場合、双方当事者の訴訟代理人について情報が公開されない場合、と運用が分かれており、かつ、この点に関する情報公開条例の規定ないし裁判例等は存在しない。従って、この点に関する判断は、牛久市として一貫した判断基準があり、当該判断基準が情報公開制度の趣旨に照らして妥当なものである場合には、実施機関の裁量の範囲内として妥当であると考えて差し支えないところ、実施機関の訴訟代理人である弁護士については、実施機関の代理人として実施機関担当者と同程度に公開の必要性があると考えられること、他方、相手方当事者の訴訟代理人については、当該訴訟において実施機関との間に利益相反関係(過去に実施機関の訴訟代理人を務めている等)が生じていないことを示す必要があると考えられることからすれば、いずれの訴訟代理人弁護士についても、氏名を公開される必要性が、当該弁護士において公開を望まない利益を上回るものと考えられる。
従って、双方当事者の訴訟代理人弁護士の氏名を共に公開した牛久市の判断は、牛久市訴訟代理人と相手方訴訟代理人とで公開の理由が異なるものの、双方の理由とも情報公開制度の趣旨に照らして妥当なものと考えられる。
7. 以上のとおり、本件決定は、情報公開条例に則った適正な判断であり、情報公開制度及び個人情報保護制度の本旨との関係でも妥当なものと考えられるため、異議申立人の異議申立は、棄却されるべきであると思料する。
平成26年5月26日
牛久市情報公開・個人情報保護審査会
石田 努
久吉 一生(副会長)
星野 豊(会長)
宮本 弘
宮本 芳孝
諸橋 基之
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