「幽玄の世界」へのいざない

ホタル再生にかける行政と市民の熱き思い       広報うしく市民特派員 小原 靖三


日本一のホタルの里を夢見て

 6月8日、牛久自然観察の森で開催された第3回「ホタルの夕べ」に参加した。梅雨入り前の薄日の差す天気で、ホタルの出現には好都合…と期待しながら夕方早めに現地へ向かった。少年時代、広島の田舎で水面の上を降るように乱舞する無数のホタルを、ほうきで追いかけた懐かしい思い出がある。しかし、それ以来半世紀、日常の生活に忙殺されて、ついぞホタルのことなど考えもしなかった。そんな訳で職員の方の話を聞いて驚いた。「8年前、1,000匹くらい異常発生したが、昨年は20〜30匹しか見られなかった。しかも、市での生息場所は3カ所だけ」だそうだ。ホタルと戯れた子どものころの経験が幻想のように思えてきた。この活動に協力している「うしく里山の会」代表の「牛久を日本一のホタルの里にしたい」という夢に触れたが、そのチャレンジの至難さが想像された。自分の知らない間に、こんなにも自然破壊が進み生態系は変化していたのか。(写真:牛久自然観察の森のゲンジホタル)

環境教育と癒しを求めて

 5時からネイチャーセンターで園長のあいさつ、関係団体の紹介や準備の最終打ち合わせなど、スタートのセレモニーが行われた。入場は7時からである。開催全4日間で約2,000人の参加が予想されている。
 筆者にとっての「ホタル」はまさしくノスタルジーであるが、ほかの市民は「ホタルを見ること」に何を求めているのであろうか?園長さんの話では「若い親たちは『自然教育の場』ととらえており、環境活動における女性の力は目覚ましい」そうである。子どもたちも、ホタルの成虫の寿命は2週間ほどしかないこと、その間、水を飲むだけで生き続けることなどよく知っている。一方、「年配の人はホタルから『元気をもらう』派の人が多い」そうである。こちらは自分も実感を持ってうなずける。あのやわらかいほんのりとした光の点滅に、繁忙な日常の暮らしの中での癒しを求めるのであろう。

闇に淡い光の「幽玄の世界」

 観察場所は、くみ上げた地下水の流れが「カッパの沼」に注ぐ途中の「コムラサキの丘」付近100メートルの範囲である。なだらかな傾斜地に林と草地が境界を接している。見学者に混じってコースを回る。「ヒグラシの林」に入ると、遊歩道の夜間照明に浮き上がった木々の色が鮮やかで、えも言われぬ荘厳さと静寂を覚える。照明が低くなり、やがて無くなると(ホタルの敏感さへの配慮)目的地に到着。そこは漆黒の闇の世界である。気温も少し下がったようで森の冷気を感じる。突然、「あっ、見えた!」、「お母さん、光ってる光ってる」…、あちこちで小声の歓声が上がる。真っ暗闇の中に、淡い光が30も点滅しているであろうか。同時に4、5匹が競演している。梢近くを舞っているのもいる。まさに幽玄の世界である。こんな厳かな経験は何年ぶりであろうか。 行政と市民の連携に深い感動  「ホタルの夕べ」は市都市計画課や牛久自然観察の森の職員だけでなく、「うしく里山の会」、「筑波大学野生動物研究会」などいろいろなボランティアの皆さんで運営されている。黙々と受け付けに精を出す熟年者。若い「レンジャー」の手際良い準備対応や見学者に対する面白おかしいホタルについての説明。交通・駐車場整理の役割のお巡りさん、市職員。まさしく行政と市民、老若男女が混然一体となった活動に深い感動を覚えた。  20匹のホタルにかけるチャレンジャーたちの熱い思いの何と素晴らしいことか!