迫力と華麗・若者が主役


石見神楽 猿島(さしま)の乱を観賞して  広報うしく市民特派員 飯塚 寿子

オープニングは八岐大蛇(やまたのおろち)のごあいさつ!

 煙とともに8匹の大蛇が現れ、舞台いっぱいにまるでダンスを踊るかのように、ぶつからず離れず自由自在に動き回り、8匹がそろってしっぽを高く上げてのごあいさつ。そしてまた煙の中に消えて行きました。
 公演に先立ちご案内状を頂いた私が興味を持ったのは、演目もさることながら、石見神楽が青少年の健全育成に非常に貢献しているとの世話人の方の話でした。そこで開演前に舞台裏をのぞかせていただきました。
 大蛇を演じるのは高校生から30代の若者で、伝統的郷土芸能の中心的な担い手であり、ほかの郷土芸能との違いは、小学校から高等学校まで「子供神楽クラブ」や「郷土愛好会」があり、自分から入部・入会し、子どものころから地域の一員として慣れ親しんでいることです。また、学校を卒業しても神楽を舞いたいがために地元に残り、神楽を心から楽しみ郷土をはぐくんでいる若者たちがたくさんいるとのことでした。
 今、茨城県青少年健全育成審議会では「地域親になろう!コミュニティ・ペアレント運動」を広げようとしていますが、これはまさにその原点だと感じました。(写真:迫力満点の大蛇)

出雲に伝わる八岐大蛇 大蛇の腹より出たる宝剣は!

 「頭は八つ尾も八つ。目はほおずきのように燃え…」出雲地方に伝わる伝説で、大地主の娘が大蛇に飲み込まれるのを、須佐之男命(すさのおのみこと)が毒酒を飲ませ酔い伏したところを退治します。切り裂いた大蛇の腹から一本の宝剣が現れ、命(みこと)は天照大神(あまてらすおおみかみ)に献上しました。その後、出雲の大地は豊かな実りある安心して暮らせる国になったとの物語です。
 命と大蛇との壮絶な戦いは舞台狭しと繰り広げられ、大蛇の首が飛ぶさまは迫力満点でした。(写真:演じ手には高校生の姿も)

猿島の乱 妖術と陰陽の術との戦い

 平将門(たいらのまさかど)の娘五月姫が、朝廷に滅ぼされた父の無念を晴らすため、貴船(きふね)の社(やしろ)に願をかけ妖術を授かり、名を滝夜又姫(たきやしゃひめ)と改め父の故郷である猿島郡岩井の地に立ち帰り、朝廷に戦いを挑みます。朝廷は大宅中将光国(おおやのちゅうじょうみつくに)に姫の征伐を命じ、姫の妖術と光国の陰陽の術が火花を散らした戦いの果てに、姫は成敗されてしまうという哀れで悲しい物語です。
 煙やクモの糸を表わしたと思われる無数の細い紙は臨場感あふれ、どきどきして見ていました。さらに絢爛たる衣装は舞台上でも早替り。汗は光り、太刀や弓を持ち、重たい衣装をまとっているにもかかわらずスピード感あふれる動きには、ただ感嘆するばかりでした。
 このほか三つの演目がありましたが、どの演目もしめ縄が張られ、黒い幕と神棚が祭られただけのシンプルな舞台装置でしたが、大太鼓・平太鼓・あたり鐘・笛の音響効果は抜群でした。ストーリー性があり地域の神話を取り入れた演目はうまく考えてあるなあと感心すると同時に、「中・高生に見せてあげたかったなあ!もったいないなあ!」と思ったのは私だけだったのでしょうか…。(6月15日、市民センターにて)(写真:きらびやかな衣装でスピード感あふれる戦いのシーン)